カリグラファー、マリエラ・アリスメンディにインタビュー

2019-05-06
カリグラファー、マリエラ・アリスメンディにインタビュー

今回、ティビエルジュ パリはカリグラフィーに情熱を注ぐマリエラ・アリスメンディをインタビュー。カリグラファーという職業、文字についてそして紙との関係について話を伺ってきました。

カリグラファーであるということは、文字のレイアウトにおいて芸術的で生き生きとしたスタイルをインクで創作するということです。カリグラフィーは独自のデザインの文字を創造することができます。カリグラフィーは紙切れとインク、手だけに頼る一種の思考のようなものです。

 

"幼い頃から、書くことが好き。"

私は昔から文字そのもの、その美しい形、アッセンダーとディッセンダーのバランス、直線と曲線などが好きでした。幼い頃から、書くことが好きでよく文字の落書きをしていました。 幼稚園の時、先生からこの愛情を教わった気がします。私は鉛筆を削ってその匂いを嗅いで、アルファベットを書き写すのが好きでした。文字を追う、それがとても大切だと感じました。その後、私の中学の担任の先生は素晴らしい方で、試験の前日に美しい書体で書かれた見出しのついた紙を私たちに用意してくれました。私たちは様々な書体で書かれた小さな本を持っていて、それがとても面白かったんです。家族と離れて過ごす夏の間に、手紙を書くためにシェーファーの万年筆を買いました。そのペンには筆記体のアルファベットの見本が付随していて、文字の練習と手紙を書くのに長い日々を費やしました。

バカロレアを取得後は、グラフィックデザインの勉強をしました。私の好きな授業は-決まって文字で- タイポグラフィーでしたが、カリグラフィーのことがいつも頭から離れませんでした。ある日、グラフィックデザイナーだった学部長から仕事を依頼され、卒業証書のカリグラフィーを任されました。その後、友人の多くが彼らの結婚式のために古くさいラウンドハンド体より珍しいカリグラフィーの招待状を欲しがりました。なので、これらが私の初めての仕事になりました。カリグラフィーをスキルの習得と思い込むのではなく、表現方法や芸術として捉えるよう促したのはこの学部長です。

 

"ふさわしいものを。"

私は普段自宅の大きい机で仕事をしています。私は自分の手と、インク、紙だけに頼って自由に描くのが大好きです。ショーや展覧会の招待状、プライベートディナーのメニューリスト、ポエムなどシンプルなものを作るのが好きですね。また、新郎新婦のイニシャルを組み合わせて、ふさわしいモノグラムを作ることもあります。

 

 

マリエラ・アリスメンディによって名入れされたティビエルジュ パリのリフィル

 

私は羽ペンと竹ペンを持っていますが、作るものによって細め、太め、柔らかめ、硬め、鋭いもの、また傾きがあるものなどペン先を自分で選べる木製のホルダーを好んで使っています。

このペンには墨を使用しています。しかし、万年筆やボールペンに比べて、線一本一本のインク量が多いので乾燥するまでの時間が長く、作業に時間がかかります。なので時間がない時は、万年筆を利用します。そして大きな封筒やポスターに描く時や文字を大きく描きたい時はフェルトペンを利用することもあります。線が描きやすくカジュアルなのが特徴です。

普段、ヒューマニスティック体(ルネッサンス期の知識人に採用された丸みがあって縦長のフォント)を何年も複写して生まれた独自の書体の特に筆記体を活用しています。しかし、イタリック、チャンセリーハンド、ラウンドハンド、ロンド、スクリプト、そしてブラシ効果のある書体も使えます。

 

 

細字の筆ペンで書かれたカリグラフィー見本

チャンセリー書体から着想を得た書体:

1. 標準のイタリック体

2. 圧縮・拡大したイタリック体

3. 標準のロマン体

4. 引き伸ばした大文字

5. フランス語筆記体と英語筆記体のミックス

 

"紙が美しければ美しいほど、きれいに描きたくなる。"

紙はもちろん土台であり、良い作品の基盤です。ですので、大変重要な役割を担っています。良質で使用する技法に適したものでなければなりません。つまり、にじまずインクが裏に抜けずしかし良くインクを吸収する細かい目の紙です。紙は感情をかきたてる生き生きとした貴重な素材です。紙が美しければ美しいほど、きれいに描きたいと思います。

私は今まで紙との物質的な関係性を考えたことはありませんでした。しかし名刺用紙選びや結婚式で使う紙選びなど、紙選びには選ぶ人それぞれの個性が出ます。紙は選ぶ人のアイデアや気持ち、考えていることなども乗せる卓越した素材です。

私がカリグラフィーを行う際にはインクをよく吸収する表面が均一な紙を好みます。文字を小さく書くとき、とても鋭い金属製のペン先を使うため、表面が滑らかであることが必要不可欠です。その他、柔らかい質感の紙を使用します。表面の質感がわかりやすい紙を使うときは、ペン先が引っかかる可能性とインクが紙の上に跳ねて作品を途中で台無しにしてしまうリスクがあります。こういった場合、マーカーを使用します。紙の質感が際立っているほど、線への影響が大きくなります。

 

  

ティビエルジュ ペーパーへのカリグラフィーテスト動画

 

"自由になる感覚"

ル カルネ ティビエルジュに使われるリネンファイバーでできたこの紙は驚くほど柔らかく、書くときのペンの滑り方は本当に素晴らしいです。とても滑らかで軽いティビエルジュ ペーパーの上にペン先を走らせたとき、完全に自由になった感覚を覚えます。インクはスムースに出て、どの方向にも流れるように書くことができます。ティビエルジュ ペーパーは生まれたばかりの赤ちゃんの肌のようです。初めてこの紙を使ったときから、この他にはない軽さに完全に魅了されてしまいました。

 

"筆跡は指紋と同じ。"

手書きで書いた文字が表すアイデンティティ、それが私たち自身に与える動作や直感、誠実さにとって代われるものは他にないでしょう。筆跡は指紋のようなものです。例えば保守的な性格であれば小さい字を書く傾向にあるというように私たちの性格を表します。また、筆圧に応じて線が太くなったり細くなったりするので、これでその人の繊細さがわかるでしょう。筆跡は人それぞれです。

おそらく両方を使えるようになる必要があると思いますが、スポーツで筋肉を刺激するように、手で書くときには脳を刺激するため、子どもの学習スピードが上がることが証明されています。手と腕の動作を呼吸に合わせることが大切で、そのためには高い集中力が必要となります。美しく書くには、良い姿勢とバランスを保つ必要があり、体も鍛えられます。練習すればするほど上達し、自分のスタイルを習得します。これはより美しく書くための調和、流れそして思考を伸ばします。感謝の手紙、愛のメッセージ、結婚式の招待状はこの先も需要があるでしょう。私たちが忘れたくない大切なことはすべて、これからも紙に手書きで書き続けるでしょう。

 

"音と音の間の沈黙は音そのものと同じくらい重要である。"

独自のスタイルを確立するには、手を鍛えるためにたくさん複写する必要があります。まずイタリック体のような簡単な書体から始めるべきです。一定の美しい書体を書けるようになるまで忍耐力、冷静さそして呼吸のリズムを培う必要があります。文字ひとつひとつの構造と間隔を学んで理解しなければなりません。

ひとつひとつの文字の間の適切な文字間隔は文字の読みやすさに関わってきます。そのため、文字サイズとその間隔のバランスを維持し、文字の間の一定のリズムを大切にしなければなりません。それが文字の美しさを生み出します。モーツァルトは《沈黙はとても重要だ。音と音の間の沈黙は音そのものと同じくらい重要である。》と残しています。

 

2019年5月6日 パリ

マリエラ・アリスメンディ

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